環境生物科学研究室

研究紹介

1. 都市域の下水や都市河川に形成される微生物生態系の解明

 都市への人口集中が加速している現代においては,下水道や都市河川に代表される人工水環境が急速に拡大しています.これら人工水環境の拡大は,都市部にて新しい水域生態系が拡がっている事を示しています.
 しかし,この急速に拡大している水域生態系にどのような微生物が住み着き,どのような生態系が形成されているのかについては,未だあまり解明されていません.
 そこで下水の中に形成される微生物生態系と,下水生態系における抗生物質耐性遺伝子の動態を明らかにする事を目指した共同研究を,国内外の研究者と協力しながら進めています.

 コンクリートによって護岸された都市河川は,河川が本来持っている微生物などによる水質浄化機能を喪失していると言われています.
 しかし,コンクリート護岸がどのくらい河川の微生物機能を変化させているかを,定量的に示したデータはあまり存在しません.
 そこでコンクリート護岸が河川の付着性微生物へ及ぼす影響を,室内実験と現場実験の組み合わせながら明らかにしようとしています.

関連する発表論文・著書
本文 K. Matsui, T. Fumoto, and H. Kawakami. 2019. Testing the repellent effects of construction materials on the attachment of the invasive golden mussel, Limnoperna fortunei, in a Japanese urban tidal river. Limnology 20: 131-136.
本文 松井一彰、横山雄一、亀井訓平、中口譲、江口充、谷口亮人、竹原幸生、麓隆行. 2017. 下水越流水が東横堀川の水質に及ぼす影響と雨水貯留管供用による改善効果の細菌叢を指標にした評価. 土木学会論文集G (環境) 73: 134-142.
本文

2. 細菌の重金属耐性能と耐性遺伝子の分布に関する研究

 地球には重金属と呼ばれる元素が存在します.重金属は生命活動において

  1. 必要なもの(鉄など)
  2. 微量は必要だが量が多いと毒性を示すもの(銅やクロムなど)
  3. 必要ではなく毒性もほとんどないもの(金など)
  4. 微量でも毒性を示すもの(水銀やカドミウムなど)

に区分することができます.
(注)生物種によって多少の違いはあります.例えば銀はヒトへの毒性はそれほど高くありませんが,細菌には強い毒性を示します.

 地球の構成元素である重金属は,生命が誕生して最初に出会った有害物質です.このことから,生命体が地球で生きていくためには,有害な重金属に耐性を持つことは必然だったと考えられます.そして現在においても,一部の細菌は有毒な重金属に耐性を示す事が知られています.
 本研究室では,特に水銀に耐性を示す芽胞形成細菌に注目して,耐性に関わる遺伝子構造や耐性細菌の生態を調べています.これまでの成果として,水銀耐性芽胞形成細菌が地球全体に広く分布している事や,トランスポゾン構造を持つ耐性遺伝子が細菌間で水平伝播されている事を示してきました.
 今後は細菌の分散機構や耐性機構の進化過程の理解,さらには重金属汚染を生物的に改善する技術への応用などを目指しています.

関連する発表論文・著書
摘要 K. Matsui, and G. Endo. 2018. Mercury bioremediation by mercury resistance transposon-mediated in situ molecular breeding. Applied Microbiology and Biotechnology 102: 3037-3048.
本文 K. Matsui, S. Yoshinami, M. Narita, M. F. Chien, L. Phung, S. Silver, and G. Endo. 2016. Mercury resistance transposons in Bacilli strains from different geographical regions. FEMS Microbiology Letters 363: fnw013.
本文 松井一彰、成田勝、遠藤銀朗. 2007. 大陸と海洋を渡り歩く細菌と遺伝子:水銀耐性細菌と水銀耐性遺伝子のグローバルな分散. 日本生態学会誌 57: 390-397.

3. 微生物生態系を利用した生物多様性と生態系機能の関係性の解明

 二酸化炭素の排出量設定や水銀使用の規制に代表されるように, 環境問題の多くは対象物質の濃度や量の規制によって,解決が図られてきました.
 しかし生物多様性や生態系機能は数値化することが難しい対象です.そしてこのことが,生物多様性の保全に向けた規制や基準を制定する上で,利害関係者間の理解や合意を難しくしています.
そこで生物多様性の定量的な評価を目指して,微生物の種数と生態系機能の関係を理論的に説明する共同研究を進めています.
 世代時間が早い微生物を使用することによって実験的な検証機会を増やし, より精度の高い理論構築を目指しています.
 またこれらの成果を,遺伝子組換え生物の生物多様性への影響評価が問われる「カルタヘナ議定書」に関する議論に適用することも試みています.

関連する発表論文・著書
摘要 T. Miki, T. Yokokawa, P.J. Ke, I.F. Hsieh, C.H. Hsieh, T. Kume, K. Yoneya, and K. Matsui. 2018. Statistical recipe for quantifying microbial functional diversity from EcoPlate metabolic profiling. Ecological Research 33: 249-260.
本文 松井一彰、横川太一、上田匡邦、道越祐一、水口亜樹、松田裕之、三木健. 2016. カルタヘナ議定書にある「生物の多様性の保全及び持続可能な利用への影響」はどのように評価できるのか?:まとめと今後の展望. 日本生態学会誌 66: 325-335.
本文 T. Miki, T. Yokokawa, and K. Matsui. 2014. Biodiversity and multifunctionality in a microbial community: a novel theoretical approach to quantify functional redundancy. Proceedings of the Royal Society B 281: 20132498.

4. 環境中における細胞外DNAの動態および遺伝子水平伝播に関する研究

 一部のウィルスをのぞく全ての生物は遺伝情報物質としてDNAを持っています.DNAは生物の細胞内にのみ存在すると考えられがちですが, 実際には生物の細胞外にもDNAが存在しています.これらのうち,海や湖沼のような水環境中に存在する細胞外DNAは「溶存態DNA」と呼ばれています.水中に大量に存在する「溶存態DNA」は,微生物の栄養源として,また細菌の遺伝子資源として重要だと考えられています.
 しかし水環境中の「溶存態DNA」がどこから来て,どのような運命をたどるのかはほとんどわかっていません.「溶存態DNA」の水環境中における役割を解明し,環境中における遺伝子動態の解明へ役立てる事を目指しています.

補)水中から細菌以上の生物細胞を除いたDNA分画を「溶存態DNA」と定義しています.実験的には環境水を孔径 0.2 umのフィルターで濾過した濾液からDNAを精製します.最小の単細胞生物である細菌から見て,細胞外にあるDNAかどうかが着目しているポイントです.
 他方,近年研究が盛んな「環境DNA(eDNA)」は,孔径が約 0.7 umのグラスフィルターにてDNAを捕捉回収します.環境DNAを用いた動態調査は,魚のような大型の多細胞生物が主な対象です.そこで環境中に放出される糞や粘液などに含まれるDNAを効率よく回収して,大型生物が環境中に残した痕跡を調べる事に主眼が置かれています.

関連する発表論文・著書
著書 (本) 松井一彰. 2012. 遺伝情報の動態:微生物の遺伝子水平伝播、 日本生態学会 編、シリーズ現代の生態学 第9巻「淡水生態学のフロンティア」、 p132-141、共立出版、 pp. 269.
本文 K. Matsui, N. Ishii and Z. Kawabata. 2003. Release of extracellular transformable plasmid DNA from Escherichia coli cocultivated with algae. Applied and Environmental Microbiology 69: 2399-2404.
本文 K. Matsui, M. Honjo and Z. Kawabata. 2001. Estimation of the fate of dissolved DNA in thermally stratified lake water from the stability of exogenous plasmid DNA. Aquatic Microbial Ecology 26: 95-102.

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〒577-8502
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E-mail:
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