1. 細菌の重金属耐性能と耐性遺伝子の分布に関する研究

 地球には重金属と呼ばれる元素が存在します.重金属は生命活動にとって
  (1) 絶対必要なもの(例えば 鉄)
  (2) 微量は絶対必要だが多量にあると毒性を示すもの(例えば銅やクロム)
  (3) 絶対必要ではなく毒性もほとんどないもの(例えば金)
  (4) 微量でも毒性を示すもの(例えば水銀やカドミウム)
 に区分することができます.
(注)生物種によって多少の違いはあります.例えば銀はヒトへの毒性はそれほど高くありませんが,細菌には強い毒性を示します.

 細菌の中には有毒な重金属に対して耐性を示すものが存在します. 本研究室では,特に水銀に耐性を示す芽胞形成細菌に注目して,
環境中より「重金属耐性細菌」を探しだし,耐性に関わる遺伝子の解析や耐性細菌の生態を調べています.

 地球の構成元素である重金属は,生命が誕生して最初に出会った有害物質です. その長い歴史の中で獲得された耐性機構を明らかにする事から,
細菌の分散機構や進化過程の理解,さらには重金属汚染を生物的に改善する技術への応用を目指しています.

<関連する発表論文・著書>

  1. Matsui, K., S. Yoshinami, M. Narita, M. F. Chien, L. Phung, S. Silver, and G. Endo. 2016. Mercury resistance transposons in Bacilli strains from different geographical regions. FEMS Microbiology Letters 363: fnw013. 摘要
  2. Chien, M. F., M. Narita, K. H. Lin, K. Matsui, C. C. Huang, and G. Endo. 2010. Organomercurials removal by heterogeneous merB genes harboring bacterial strains. Journal of Bioscience and Bioengineering 110: 94-98. 摘要
  3. 松井一彰、成田勝、遠藤銀朗. 2007. 大陸と海洋を渡り歩く細菌と遺伝子:水銀耐性細菌と水銀耐性遺伝子のグローバルな分散. 日本生態学会誌 57: 390-397. 摘要
  4. 松井一彰、遊佐清孝、菅原宏幸、成田勝、遠藤銀朗. 2007. 有機水銀分解遺伝子と生物発光システムを用いた有機水銀化合物検出用微生物バイオセンサーの開発に関する研究. 水環境学会誌 30: 77-81. 摘要
  5. 遠藤銀朗・松井一彰・成田勝 (2006), 環境浄化微生物に見られる遺伝子の水平伝播?微生物種に共有された水銀耐性遺伝子から組み換え生物の開放系利用を考える?, 環境バイオテクノロジー学会誌, Vol. 6, No. 1, p 27-32. 書誌情報
  6. Matsui, K., M. Narita, H. Ishii, G. Endo. 2005. Participation of the recA determinant in the transposition of class II transposon mini-TnMERI1FEMS Microbiology Letters 253: 309-314. 摘要
  7. Narita, M., K. Matsui, C. C. Huang, Z. Kawabata, G. Endo. 2004. Dissemination of TnMERI1-like mercury resistance transposons among Bacillus isolated from worldwide environmental samples. FEMS Microbiology Ecology 48: 47-55. 摘要
  8. Gupta, A., K. Matsui, J.F. Lo and S. Silver. 1999. Molecular basis for resistance to silver in SalmonellaNature Medicine 5: 183-188. 摘要
  9. Silver, S., A. Gupta, K. Matsui and J. F. Lo. 1999. Resistance to Ag(I) cations in bacteria: environments, genes and proteins. Metal-Based Drugs 6: 315-320. 摘要

2. 微生物生態系を利用した生物多様性と生態系機能の関係性の解明

 二酸化炭素の排出量規制に代表されるように,環境問題の多くは問題視される物質の濃度や量の規制によって,問題解決が図られてきました.
しかし,生物多様性や生態系機能は数値化が難しい項目であり,このことが規制や基準の制定においてステークホルダー間の理解や合意を難しくしています. そこで生物多様性の定量的な評価を目指して,微生物の種数と生態系機能の関係について,データベースや実験生態系を用いた理論的な研究を進めています.世代時間が早い微生物を使用することによって実験的な検証機会を増やし,より精度の高い理論構築を目指しています.
またこれらの成果は,遺伝子組換え生物の生物多様性への影響評価が問われる「カルタヘナ議定書」に関する議論に適用することも考えています.

<関連する発表論文・著書>

  1. 松井一彰、横川太一、上田匡邦、道越祐一、水口亜樹、松田裕之、三木健. 2016. カルタヘナ議定書にある「生物の多様性の保全及び持続可能な利用への影響」はどのように評価できるのか?:まとめと今後の展望. 日本生態学会誌 66: 325-335. 本文
  2. Miki, T., T. Yokokawa, K. Matsui. 2014. Biodiversity and multifunctionality in a microbial community: a novel theoretical approach to quantify functional redundancy. Proceedings of the Royal Society B 281: 20132498. 本文

3. 大阪の都市河川における微生物相の変遷に関する研究

 大阪の下水道は合流式で整備されており,大雨が降ると越流した下水が河川に流れ込みます.そこで越流下水が都市河川の水質におよぼす影響の
評価を目的に,通常時の都市河川における微生物相の状態と降雨時の微生物相の状態を比較評価しています.また2015年3月に供用が開始された 「平成の太閤下水」の水質改善効果についても,微生物生態学の視点から分析を進めています.

 コンクリートによって護岸された都市河川は,微生物による水質浄化能などの河川本来の特徴を喪失しているとよく言われます.
しかし,コンクリート護岸がどのくらい河川の特徴を変化させているかについて示したデータはあまり存在しません.
そこでコンクリート護岸による河川の付着微生物への影響評価を目的に,道頓堀川と大阪港湾をフィールドにした現場浸漬実験を実施しています

<関連する発表論文・著書>

  1. 松井一彰、横山雄一、亀井訓平、中口譲、江口充、谷口亮人、竹原幸生、麓隆行. 2017. 下水越流水が東横堀川の水質に及ぼす影響と雨水貯留管供用による改善効果の細菌叢を指標にした評価. 土木学会論文集G (環境) 73: 134-142. 本文
  

4. 環境中における細胞外DNAの動態および遺伝子水平伝播に関する研究

 一部のウィルスをのぞく全ての生物は遺伝情報物質としてDNAを持っています.DNAは生物の細胞内にのみ存在すると考えられがちですが, 実際には生物の細胞外にもDNAが存在しています.これらのうち,海や湖沼のような水環境中に存在する細胞外DNAは「溶存態DNA」と呼ばれています.
 水中に大量に存在する「溶存態DNA」は,微生物の栄養源として,また細菌の遺伝子資源として重要だと考えられています. しかし水環境中の「溶存態DNA」がどこから来て,どのような運命をたどるのかはほとんどわかっていません.
「溶存態DNA」の水環境中における役割を解明し,DNAを利用した環境の健康診断法へ応用する事を目指しています.

<関連する発表論文・著書>

  1. (本) 松井一彰. 2012. 遺伝情報の動態:微生物の遺伝子水平伝播、 日本生態学会 編、シリーズ現代の生態学 第9巻「淡水生態学のフロンティア」、 p132-141、共立出版、 pp. 269.
  2. (本) 松井一彰 他20名. 2004. 「微生物生態学入門」, 日本微生物生態学会 教育研究部会 編薯, 日科技連出版, pp. 237.
  3. (本) 川端善一郎・松井一彰 2003. 水中を移動する遺伝子?遺伝情報の多様化に果たす細菌間の遺伝子伝播、大串 隆之 編、「生物多様性学のすすめ」、p136-157、丸善出版、pp. 186.
  4. 三木健、松井一彰、横川太一、西田貴明、小林由紀、内井喜美子. 2007. マイクロビアル・プールと生物多様性. 日本生態学会誌 57: 424-431. 摘要
  5. Ishii, N., K. Matsui,. S. Fuma, H. Takeda, Z. Kawabata. 2004. Release of transforming plasmid DNA from actively growing genetically engineered Escherichia coliFEMS Microbiology Letters 240: 151-154. 摘要
  6. Matsui, K., N. Ishii, M. Honjo, Z. Kawabata. 2004. Use of the SYBR Green I fluorescent dye and a centrifugal filter device for rapid determination of dissolved DNA concentration in fresh water. Aquatic Microbial Ecology 36: 99-105. 摘要
  7. Matsui, K., N. Ishii and Z. Kawabata. 2003. Microbial interactions affecting the natural transformation of Bacillus subtilis in a model aquatic ecosystem. FEMS Microbiology Ecology 45: 211-218. 摘要
  8. Matsui, K., N. Ishii and Z. Kawabata. 2003. Release of extracellular transformable plasmid DNA from Escherichia coli cocultivated with algae. Applied and Environmental Microbiology 69: 2399-2404. 摘要
  9. Matsui, K., M. Honjo and Z. Kawabata. 2001. Estimation of the fate of dissolved DNA in thermally stratified lake water from the stability of exogenous plasmid DNA. Aquatic Microbial Ecology 26: 95-102. 摘要